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米15日に入った、カレッジスポーツの長 “NCAA”(National College Athlete Association) による規定12条3.2.1の「代理人禁止ルール」の1部修正の決定とのレポ。マイナープロスペクトの根本「アマスポーツ」をちょっと学ぶことが出来る良いチャンスだなー、ってワケで、ブログとしてこのネタをぶっ込んでみようと思う。全くニーズは無いハズだが「元々の @ProspectJP 自体がニッチなアカウントでしょう」と自ら言い聞かせるように呟いてみながら、早速キーボードをカタカタしてみる…。
- NCAA規定「代理人禁止ルール」とは?
NCAAのルール修正レポの紹介に入る前に、まず「代理人禁止ルール」って何だ?って点からブログをスタートしよう。上に記したように規定12条3.2.1の文面に明文されているこのルール、ググってみると
12.3.2.1 Presence of a Lawyer at Negotiations. A lawyer may not be present during discussions of a contract offer with a professional organization or have any direct contact (i.e., in person, by telephone or by mail) with a professional sports organization on behalf of the individual. A lawyer’s presence during such discussions is considered representation by an agent.
ザックリ「口頭・文面を問わず、NCAAでプレー、及びプレー予定の学生アスリートが交渉・マーケティングをすべく代理人を利用することを禁じる」との内容が示されており、このルールに反し代理人を利用した学生アスリートはNCAAでプレーする権利を失うとも文面化されている。1906年に母体団体IAAUS(Intercollegiate Athletic Association of The United States)が設立されて以来、NCAAはカレッジスポーツがプロでは無くアマチュアであることを自覚した上で「アマチュアリズム」(=スポーツを行う学生アスリートが金銭的なリターンを得るべきでは無いとのスタンス)を理念に拡大していった。本規定はこのような歴史的バックグラウンドの存在について、実に雄弁に示してくれているモノであると言えよう。
さて08年、この規定はとある事例により大きな注目を集める。オクラホマ州立大でプレーしていたLHPアンディ・オリバー(元DET)によるNCAAとの法廷沙汰である。大体の内容としては
① 06年ドラフトでMINから17巡目で指名されたオリバーは、その交渉に代理人を利用した
② コレが後年になりNCAAにバレた
③ NCAAは(悪意があったか否かは問わず)代理人禁止ルールに反するとして、08年5月にオリバーのプレー権利の失効を正式にアナウンス
④ オリバーが処分が不当としてNCAAを訴える
たるモノだが、注目すべきはオリバーの不当とのコメントを法廷が支持し、NCAAの代理人禁止ルールにNGを突き付けたとの(地味ながら)大きな判決が出た点にある。法廷曰く「刑法・民法いずれも全ての国民が代理人サービスの使用にOKを出している。NCAAたる民間団体がその法的な枠を取っ払って権利の使用を禁止することは出来ない」とのコメントであり、法の見地からして非常にスッキリとまとまった判決だ。反トラスト法(=独占禁止法)の件での法廷では考えらr…ゲフンゲフン(^^;
さらに14年、代理人禁止ルールに止まらず、NCAAの規定全体にNOを突き付ける法廷からのコメントが「オバノン訴訟」により出された。かつてUCLA(カリフォルニア大ロサンゼルス分校)でバスケットボールプレーしていたエド・オバノンが、自らが認知しないところで自分の名前・肖像が利用されていることを知り、このことに対するリターンが全く無いことは不当な搾取であるとして集団訴訟たる形でNCAAを訴えたモノである。オリバーの件と同じく法廷はNCAAの「アマチュアリズム」の理念が搾取に利用されていることを認めた上で、NCAAが行っていることは反トラスト法に反すると判決を出した。法廷はNCAAに対して、厳格にアマチュアリズムを守る規定では無い、別の形でのアマチュアリズムの模索を求める判決文も提示している。
司法のスタンスとしては、NCAAの規定は存在そのものが揺らいでいるワケだ。今回のNCAAのルール修正については、このような状況が前提として存在している。
- 米15日の修正とは?
High school draftees now permitted to have agent negotiate with MLB teams. https://t.co/1Fx8brg77a pic.twitter.com/njO54cnDIN— Baseball America (@BaseballAmerica) January 18, 2016
NCAAの集会にてビッグ12カンファレンスが提示し、全80票のうち75の支持を得て可決となったこの修正、BA以外のレポもチェックすると以下の3点が分かる。
① MLBドラフトだけが修正の対象であり、バスケットボール & フットボール & ホッケー等他のスポーツの学生アスリートはダメ
② カレッジでプレーするプロスペクトもダメ
③ 代理人の利用はMLBチームとの交渉だけOKであり、クラブチーム入りせずカレッジに入る場合は代理人との関係を入学までに終わらせないとダメ
丸々オリバーのケースをケアしているような内容である。とりあえずはオバノン訴訟を受けて、以前に法廷で敗れているケースに対し、まずは1つ対処に出たとの形になった。
- この修正はホントのところどうなのか?を考えてみた
BAのレポではこの修正に対するカレッジでプレーする人材や代理人のコメントもアップされており、このポジションの方々はもちろんポジティブな反応を示している。が、私見としてはコレ自体はNCAAが規定の修正を行っている「フリ」をしたに止まるモノじゃないか?というイメージが大きい。この項目で長々私のコメントを述べた上で、このブログの〆とさせて頂こう。
そもそも、NCAAの規定がココまで法廷沙汰になっている最大の要因は、「アマチュアリズム」たる理念ではカバー出来ないレベルにカレッジスポーツビジネスが拡大してしまったからだ。10年のデータをチェックすると、NCAAの市場規模は$8Bであり、$9BのNFLに迫り、$7BのMLBを上回る(!?)大きさだ。英プレミアリーグの$3.5Bと比べると実に2倍以上。もはやNCAAとはアマチュアリズムの番人では無く、1つのビッグビジネスを取りまとめる長と言うべき運動体である。すなわち、理念に実体が存在していない歪んだ状況が、ココに存在しているワケだ。
以上からNCAAを株式企業と同じく「利益を求める運動体」である、という仮定で今回の修正をチェックすると、NCAAは「もっとも失うモノが小さい」パートでささやかな修正をしただけに止めたのかなー?と考える。
と言うのも、まずMLBドラフティーに対して「代理人NG」たるキツイルールを押し付けること自体に無理が出てきたという点がある。以前ビッグ10カンファレンスの長が学生アスリートが金銭的リターンを得ることについて「リターンが得たいならプロへ行け!」とのコメントを口にしているが、少なくともMLBドラフティーはカレッジ入りの代わりに「あ、そうですかー」とMiLB入りするルートを選ぶことも出来る。野球に限らずテニスやホッケー等もそうだが、これらスポーツの学生アスリートに対するキツイルールの強制は何も生み出さないことがハッキリしているワケだ。この修正はNCAAサイドにとって「しょうがない」対処であったと言える。
そして、同時にこの修正は「どうでも良い」モノであったりも、する。それはNCAAの大きな市場規模を支えるスポーツが実質バスケットボール & フットボールの2部門のみであり、赤字部門である野球で以前と同じような収益の搾取が行えなくなったとしても、既得権益を失うワケでは無いからだ。トカゲの尻尾切りと同じで、捨ててしまっても大丈夫なスポーツで修正に向けた「フリ」をしたと同時に、以前オリバーによって訴えられたケースにケアを行った、ということだと捉えている。
NCAAの代理人禁止ルールの修正は、カレッジスポーツがココまでの規模になった時点で必ず行わなければならないことだ。NCAAサイドも「学生アスリートもカレッジでプレーさせてやったことに対する礼も無く、3年でホイホイとプロに行くじゃないか!金だ金だ言うならこういう部分もキチンとしようぞ!」とも思っているハズであるし、それ自体は決して理解が出来ないスタンスでは無い。が、NCAAサイドの主張以上に、特にフットボールをプレーするアスリートの立場が理不尽に弱いモノと化している現状の方が、NCAA規定が内包する最大の問題であると私は考えている。
フットボールアスリートの立場の弱さとは、すなわちNFLにマイナーリーグビジネス、及びそれに準ずるモノが存在しない点のことだ。NFLはプロスペクト&ナショナルプレーヤーがプレーを行うチャンスとして「NFLヨーロッパ」たるリーグも存在していたが、07年シーズンをもって終了。独立リーグこそ存在すれど、カレッジフットボールがプロスポーツビジネス並の強大な規模となっている以上、そもそもマイナーリーグビジネスを拡大させていくこと自体がリスキーなワケだ。すなわち、放っておいてもフットボールアスリートはカレッジに入る以外方法が無いという状況がココに完成している。NCAAもアマチュアリズムの規定を全スポーツに対して修正することを行わなくてもOK、とのスタンスの根本はココにある。また、バスケットボールもHSから直接NBAに入ることがルール上出来ず(ちなみにこれらの規定もほぼほぼNCAAによるモノだ)、カレッジスポーツを経由しなければダメなことをNCAAがうまーく利用している節もある。
MLBドラフティーのHS出身プロスペクトに対するルールの修正は、バスケットボール & フットボールアスリートをいかに守るか、という最大の問題に向けての非常に小さな1歩だ。カレッジスポーツは肥大化し、そして当初の理念から大きく歪んでしまった。14年にノースウェスタン大のフットボールアスリートたちが「労働組合を作る」とコメントを出し(後に司法の見地から不成立が決定)大きなトピックとなったが、そもそもこんなことに至ること自体が歪んでいるし、1人の日本人としてはなかなか想像が出来ない状況がアメリカでは巻き起こっている。
アマチュアリズムたる理念とは対極にあるスポーツビジネスたる実体。NCAAはいよいよ長年重んじてきた理念から去るべきフェーズに入った。少なくとも私は学生アスリートの代理人利用を規定としてOKにしなければもはや整合性を取れなくなっている状況じゃないか?と、そう思っている。アマスポーツが収益をガンガン出すこと自体が理念からしておかしいのならば、その収益がアスリートからの搾取により発生していることもまた、構造として歪んでいる。
ところで、上にリンクを貼ったBAのレポには、テキサス工科大OFアンソニー・ライオンズの以下のコメントがアップされている。
“You’re dealing with high school students who are approached by professional baseball scouts, and a life-changing amount of money can be thrown your way,” he said. “In this situation, it’s very important for student-athletes in high school and their families to feel comfortable, to have an agent or advisor or lawyer to help them out.”
全てのアスリートがザック・グレインキー(AZ)みたいに聡明なワケでは無い。HS出身プロスペクトに限らず、アマチュアアスリートとはその立場にしろ、そして大人に立ち向かう上で最大の武器となる知識量にしろ、あらゆる側面において弱者として晒されているのだ。
NCAAがどんなに拒否をしようとも、このトピックへのより深い踏み込みは必ず求められるハズだ。それも、そう遠くないタイミングで。
P.S. こんなにマジメにブログを書いたのは初めてかもしれない(笑)
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