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ラザロ・”ラザリト”・アーメンテロス(OF)のエージェントの件が迷走を辿っている。主にFOXスポーツがこの「ラザリト狂騒曲」についてのコメントを取り上げ、整理を行っているが、全体的な中南米アマ(以下、INアマ)事情を捉えられないとこの件に対するコメントは難しいイメージだ。
本ポストは “NCAAの「代理人禁止ルール」を考える” と同じく、発生ケースを元にしながらアマチュアプロスペクトを取り巻く構造をメモるためのモノである。上述ポストと同じく若干入り組んだネタではあるが、もし興味があれば全文チェックをして頂けると幸いである。
- ラザリトの件とは?
まずは、ラザリトのエージェント状況がどうなっているのか?たる点を時系列で抑えようこの点は本アカウント( @ProspectJP )でのツイートで辿れるので、ニュースについてのツイートを以下に貼り付ける。
* FOXスポーツコラム1本目の内容
* FOXスポーツコラム1本目の内容
キューバ出身OFラザロ・アーメンテロスのエージェントであるチャールズ・ヘアストンがブスコンからの脅迫を受けてアーメンテロスの件から退くことを決定。ブスコンとは中南米プロスペクトに付くエージェント兼トレーナーのこと。アーメンテロスはドミニカでブスコンの下トレーニング。 #mlbjp— ぷろすぺくとJP (@ProspectJP) February 24, 2016
ヘアストン曰く、ヘアストンとブスコンでアーメンテロスのメジャークラブ入り時期についてスタンスの差が生じたことが原因。ブスコンの狙いは出来るだけ早くのメジャークラブ入り。その上でアーメンテロスとその家族に対してもアメリカ入りの禁止を伝えると強行策に出ています。 #mlbjp— ぷろすぺくとJP (@ProspectJP) 2016年2月24日
* FOXスポーツコラム2本目の内容
ラザロ・アーメンテロスはチャールズ・ヘアストンに代わるエージェントとしてオクタゴン・ワールドワイドを加えました。また、本日に入りこれらエージェントの件でアーメンテロスサイドからもコメントが出され、ヘアストンのコメントとは異なる点が浮上してきました。 #mlbjp— ぷろすぺくとJP (@ProspectJP) 2016年2月25日
昨日はブスコンの不当な圧力がレポも、アーメンテロスの父曰く家族の行動に制限は無しとのこと。また、アーメンテロスとヘアストン間では「ヘアストンが事実上のオファーを生み出せない」「ヘアストンがアーメンテロスとブスコンを引き離そうとしている」2点で衝突をしていました。 #mlbjp— ぷろすぺくとJP (@ProspectJP) 2016年2月25日
オクタゴン・ワールドワイドのエージェントであるウリセス・カブレラは、ヘアストンの下アーメンテロスがプレーに集中出来ていなかったとコメント。アーメンテロス本人もこの点を自覚しており「出来るだけ早く、コンスタントに、そして集中してプレーを行いたい」と口にしています。 #mlbjp— ぷろすぺくとJP (@ProspectJP) 2016年2月25日
元々ラザリトは亡命ルートのゴールとしてハイチ入りをしていたが、そこからドミニカ入り(ハイチ・ドミニカは隣国であり、両国首都は車で大体300分とされている)し(後述する)ブスコンの下でのトレーニングをスタート。あくまで私のイメージとして、大半のキューバ出身プロスペクトはアプローチをかける米エージェントが手配した環境・トレーナーと共にトレーニングを行うケースが主であるハズだ。
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しかし、ラザリトの場合はカルチャー39たるエージェントとパートナーシップを結んでいたにも関わらず、トレーニング面はブスコンたる別に独立した主体に委ねる形となっていた。このような形で「トレーニング」「代理交渉」のステージで役目を分けたことが、今回のラザリトの件の根本的な原因となっている。
- ブスコンとは?
「トレーニング」「代理交渉」たる役目で2人のエージェントが付いたことの何がダメだったか、の点について整理する上では、まずラザリト、エージェントと共に出てきた「ブスコン」について抑える必要がある。
ブスコン(buscon:英訳するとsearcher・prospectorたる意味を得る)とは、INアマに付く中南米拠点のトレーナー兼エージェントの呼称である。古くは80年代、ドミニカから引き入れた人材をメインにして実力を伸ばしてきたTORが刺激となる形でINアマに対する興味がメジャー全体で大きくなってきたことで、貧困に包まれた中南米各国にとって野球は大金を得られるビッグビジネスと化した。そして、それはプレーする側の人間にとってだけでなく、その周囲にとっても「野球のトレーニングを行い」「日々の生活のサポートも行い」「英語の習得にも協力し」「その上で契約金の1部をリターンとして得る」たるモノが大きなビッグビジネスとして捉えられるようになった。
ブスコンがプレーレベルに与えるモノはとても大きい。その証明として取り上げられるケースとしてはプエルトリコの人材輩出事情が上げられる。近年のカルロス・コレア(HOU)やフランシスコ・リンドーア(CLE)、エディー・ロザリオ(MIN)等の目立つパフォーマンスに隠れがちだが、一般的にプエルトリコのプレーレベルは89年、つまりメジャーのドラフト対象国となった年から大きく下がったと評されている。コレはドラフト対象国となったことにより契約金が抑制された結果、ブスコン業そのもののうまみが大きく減り、プエルトリコにてブスコンによる育成システムが消え去ったことに由来する。人材個々のクオリティ面については別にして、事実として89〜15年にメジャーでプレーした合計の人数を比べると、プエルトリコが131人に対し、ドミニカが524人 & ベネズエラは290人と人材輩出能力は大きく差が生じている(データはBaseball-Reference.comを参照)。
昨今のプエルトリコは「プエルトリコ・ベースボール・アカデミー」を始めとしたHSを中心としたプロスペクトの育成システムを構築しているフェーズにあり、同校からはコレアやクリスチャン・バスケス(BOS)等が生まれると少しずつ土台が出来上がりつつある。しかし、コレは逆に言ってしまえばブスコンによる育成システムが消えることによる国自体の、そしてメジャーのプレーレベルに与える影響の大きさも良く示している。そもそもアカデミーを設立するとの対処策自体も、プエルトリコでの生活がドミニカ・ベネズエラと比べ経済的に恵まれている状況が根本にあることも忘れてはならない。
このような影響力を伴いながら、中南米にてプロスペクトの育成・輩出を担うポジションの人間がブスコンである。言うまでもなく、コレは中南米以外では目にすることが出来ないシステムであり、上述のようにHS・カレッジでのプレーたる形で野球人口の受け皿となるモノが存在しない(というより、経済的に成立が難しい)こともブスコン成立の一因であると捉えられよう。
以上のようなブスコンであるが、オーソドックスとされるブスコンの役目を以下の図に整理してみた。
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- ブスコンは(主にアメリカにて)どう捉えられているのか?
ところでこのブスコン、主に米メディアのコラム等をチェックすると、全体として否定的に捉えられている存在である。ハッキリとその存在を否定している内容は少ないが、少なくとも「ブスコンを肯定するスタンス」のコラムを私はチェックしたことがない。
その主なワケが詰まっているのが、MLB→ブスコンにある「MLB事務局による監視」たる部分である。
具体的には「年齢詐称」「薬物投与」についての監視である。本来、ブスコンとはトレーニング・英語習得サポートのクオリティをもってよりハイレベルなプロスペクトを育て上げ、高額な契約金のマージンを得るというモノがあるべき形だ。しかし中南米各国の貧困たるベクトルが、そのあるべき形を歪ませてしまうケースも存在することをココでは抑える必要がある。
① 年齢詐称
中南米各国は日米等の先進国と比べ戸籍システムが非常に脆弱であり、それゆえ出生証明書の偽造・買収等のハードルはかなり低い。プロスペクトが別人のステータスを名乗ってメジャー入りをするケースはよく目にされるモノであり、現役でプレーしている人材でもロベルト・ヘルナンデス(RHP)やフアン・オビエド(RHP)、サンティアゴ・カシーヤ(RHP)等がコレに該当する。
例えば(18)のプロスペクトの出生証明書を偽造し、(16)としてMLB事務局にINアマとしての申請を行った場合を考えよう。同じ実力・同じフレームの持ち主でも、(18)と(16)では後者の方がバリューが大きいのはハッキリしている。すなわち、偽造によりブスコンはそのバリューアップ分のマージンも手にすることが出来るワケだ。
何より、年齢詐称のタチの悪さとは、こうした偽造・買収をメジャークラブサイドも手助けし、契約金の着服を行っていたケースが存在することである。ブスコンとメジャークラブが密約を交わし、INアマから搾取を行っているワケだ。現在米メディアESPNで働くジム・ボウデンはその象徴とも言える存在であり、元々暗黒期のWSHでGMを任されていたボウデンと特別GMアシスタントのホセ・リホ(メジャー計116勝RHP)はドミニカン・プロスペクトの年齢詐称を主導した責任を問われ辞任をしている。こうした年齢詐称はフロントにとっても、水増しした契約金との差額を着服が出来るうまみを有している。
② 薬物投与
プロスペクトのバリューを上げる上で、薬物投与によるパフォーマンス向上を強いるブスコンも存在する。ブスコン下での生活は全寮制の野球強豪校での日々に似ており、INアマが同じ屋根の下で生活を行うスタイルだ。この下でステロイドの入った注射を回し射つとの事例すら見られるのは事実である。事実、MLBによる薬物使用の処分のメインは中南米出身の人材であり、05〜09年の処分では60%がドミニカ出身であったとのデータも出ている。思えば、16年に入り薬物使用のペナルティーとして初となる「永久追放」を喰らったヘンリー・メヒア(RHP)もドミニカ出身である。
この件の根深さとは、ブスコンとINアマにおいてPED使用がダメであると「倫理的」に捉えられていない点にある。INアマにとっても、寿命を削ってでも成功に1歩近付ける薬物が存在するならば使用せざるを得ない。コレは中南米各国の貧困の何よりの証拠である。INアマにとって野球とは自らだけでなく、家族・親族に至るまでの生計を支えるためのツールだ。特に15年オフに入り、筒香嘉智(NPB・横浜)のドミニカWLでの充実した日々を捉えた映像が流れたことから「ドミニカの野球の根本は『楽しむ心』にある」と捉える向きも存在するが、中南米においてワンプレーが持つシビアさは日本よりも遥かに大きいモノだ。グレッグ・ゴルソン(元PHI)が “Baseball America” にアップしたWLについてのコラムや、ミゲル・サノー(MIN)のMIN入りを捉えたドキュメンタリー “Ballplayer: Pelotero” をチェックすると、その側面を感じ取れるハズだ。
昨今、薬物使用に対して厳格なスタンスを示しているMLBにとって、若い世代から薬物汚染が進んでいる可能性がある中南米各国の問題は解消が強く求められている案件であろう。MLB事務局は各国にてブスコン・INアマに対する倫理面への啓蒙活動等を行うとの努力は尽くしているが、肝心の貧困面へのアプローチが拭えない現状からすると根本的な解消には至らないと私は見ている。
- ラザリトを巡ってどうしてモメたのか?の推測
このような状況に対し是非は存在するワケだが、ひとまずコレがブスコンのリアルである。では、ブスコンたるや?を捉えられた上でラザリトの件を再び追ってみると、当初大半の方が感じていたハズなイメージからは少々異なった見え方がなされると私は思っている。
ラザリトの件における利害関係図を下に貼った上で、この件についての私見を2点に及んで書き並べていく。
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① カルチャー39がブスコンの文化を捉えられていなかったから?
カルチャー39のトップであるチャールズ・ヘアストン曰く、カルチャー39とブスコンが衝突した点はラザリトを売り出すタイミングにあった。「本人のプランを尊重して」16年INアマ期間がスタートする7月2日まで待つ、とのヘアストンと、ASAPでラザリトの契約をまとめたいブスコン、たる図式である。ヘアストンのコメントが上がったFOXスポーツ最初のコラムをチェックすると、コレについての話し合いがもつれた末ヘアストンは「殺害脅迫を受けた」としてラザリトの件から手を引いている。
ココでカルチャー39、そしてヘアストンの主張に内在する最大のネックは、ラザリトがいる場所がアメリカではなくドミニカであることを全く考慮していない点にある。カルチャー39が手を引いた後に大手スポーツエージェント「オクタゴン・ワールドワイド」が加わっている点からも、ラザリトをサポートするブスコンはエージェントとしての心得がない、もしくはエージェント業が不得手と自覚をしている可能性が高い。しかし、カルチャー39とブスコンでは、この場合ブスコンサイドの方がラザリトに対してコミットをしており、それだけのラザリトの進退についての発言権・決定権を有していると見るのが妥当なハズだ。カルチャー39は主にメジャークラブへのラザリトのプロモーションを任されていたワケだが、FOXスポーツ2本目のコラムをチェックすると彼らはこのミッションすらもまともにこなせていなかったとの記述がある(後述)。
ようするに、ブスコンのテリトリーにおいて米エージェントがしゃしゃり出すぎた、といのがブスコンの怒りを買ったモノだと私はココで推測する。
② カルチャー39がエージェントとして使えなかったから?
コレは主にFOXスポーツ2本目のコラムに上がっていた内容をベースにした推測だが、エージェントとしてのカルチャー39がラザリトサイドに見切られた可能性も高い。コレについてはラザリト父、そしてラザリト本人のコメントを追うと非常に分かりやすい。
Lazaro Sr. said that the family members are in "absolute control" of their travel documents and free to move about as they wish.
The two primary sticking points between the family and Hairston, according to Lazaro Sr. and the new agents, were an inability for Hairston's agency to produce actual offers from clubs and a refusal to allow Lazarito to resume working with his original trainer.
"I left Cuba on a mission to accomplish my dreams," Lazarito said. "I want to be with my trainer, play consistently and focus on baseball as soon as possible."
不満たらたらな上、ヘアストンが口にしていた「アメリカ入り禁止」も事実と異なると本人がコメントをしている。ラザリトの主張をチェックしても、ラザリトはブスコンの下でトレーニングを重ねたいとコメント。カルチャー39の件についてウンザリした様子が伺える。
実はこの件は巷で言われているよりもずっとシンプルであり、カルチャー39がラザリトに捨てられた図式なのでは?との推測もこのコラムにより立つようになった。
- まとめ
アメリカにおいてブスコンが快く捉えられていないワケの1つに、上記のような状況の他にもINアマにまでエージェント業の手を広げられない米エージェントのストレスが直にメディアの筆にベクトルを与えている可能性自体も否定は出来ない。FOXスポーツもだが、アメリカのメディアゆえにブスコンよりも米エージェントのコメントの方が豊富になる傾向があるのは当たり前だ。特にFOXスポーツの1本目のコラムはそういったテイストに仕上がったモノであり、1本目だけを読めばブスコンに対しネガティブなイメージを抱いてしまうのは仕方がないことだ(しかし、その後にキチンとラザリトサイドのコメントを取って2本目にした点はさすがケン・ローゼンタールという仕事っぷりであった)。
しかし近代のメジャーリーグのクオリティを担保しているモノの1つは、中南米におけるブスコンたるシステムにある。「貧困から抜け出す」この1点において、ブスコンとプロスペクトが共に同じゴールを向いているシステムにはある種の美しさがある。歪んでいるようで、実は歪んでいない、半ばだまし絵にも似たイメージを抱かせるモノだと私は感じている。
ラザリトの件で学ぶべきこととは、米エージェントがブスコンを排除し、そしてブスコンの文化・流儀をふみにじるアクションを起こすことが誰にとっても不利益になることである。ラザリトのケースを目にした大半の人のコメントが、この得体の知れないブスコンたる「ドミニカの闇」を恐れる内容であることを私はうっすらと察してはいる。しかし、ブスコンたる存在が機能しなくなった末、最終的な不利益を被るのはハイクオリティな人材の供給がストップされたメジャーリーグサイドである。ブスコンに内在する「闇」と言われる部分の存在を差し引いても、プロスペクト・ブスコン・メジャーリーグの3サイドにとって、このシステムは得るモノの方が大きい。
幸いなことに、ラザリトの新たなエージェントとなったオクタゴン・ワールドワイドのブライアン・メヒア & ウリセス・カブレラは中南米のプロスペクト事情を良く抑えた人材だ。2人は09年に「ドミニカ・プロスペクト・リーグ」たる中南米アマ用のショーケース・リーグを設立し、計500人以上のINアマをメジャークラブに送り出したキャリアを持っている。ブスコンと共存しながら一定の成功を収めている点については、現在のラザリトにふさわしい経歴の持ち主と言えるハズだ。私はコレによって、ラザリト狂騒曲は一気に収束をすると見ている。
そしてFOXスポーツ2本目のコラムが出てから4日目の2月29日。メディア上ではラザリトには何事も物騒なことは確認されず、代わりにチェック出来たのは日本でのんきにTweetDeckを開く私の姿であったというワケだ(笑)
P.S. The best for your future, Lazarito!!
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